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zoom RSS 小村雪岱の「文学としてのデザイン」 〜北浦和・埼玉県近代美術館の小村雪岱展に寄せて

<<   作成日時 : 2010/02/01 04:26   >>

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日本人で最もすぐれたグラフィック・デザイナーは?という問いには、まず第一に小村雪岱の名を挙げたいと、ぼくは常々思っていました。

けれど、世間で小村雪岱の名前を耳にすることはほとんどありません。雪岱(せったい)の名の読み方さえ知られていないのではないのでしょうか?

最近では「芸術新潮」2010年02月号で雪岱のことを大特集している、というのでさっそくAmazonで見てみたら、内容説明の欄に「特集・小松雪岱 を知っていますか? 」と、名字をまちがえて記載している有様です。





この誤植はもちろん芸術新潮ではなくAmazonの側の単純なミスですが、そもそも一般誌ではなく芸術雑誌が特集を組むにあたって「知っていますか?」という問いかけから始めなければならないあたり、いかに小村雪岱のすばらしい仕事が忘れ去られているかを物語っていると思われます。

ともあれ、この「芸術新潮」の他にも、少し前には「版画芸術」でも雪岱の特集号が出て、未見ですが「サライ」などでも取り上げられていたそうで、ここへきてようやく小村雪岱の再評価の気運が高まりつつあるもよう。

遅ればせながらではあるけれど、喜ばしいことだと思います。





ぼくが初めて小村雪岱を知ったのは、たしか「芸術生活」という雑誌が1970年代に出版した「さしえの黄金時代」という特集号を古本屋さんで買ってきたとき。

邦枝完二の小説「おせん」の挿画などを見て、ビアズリーにまさるとも劣らないほど暴力的なまでに斬新な画面構成でデザインされた白黒のシンプルな絵に、腰を抜かすほどびっくりしたものでした。

装丁の仕事では、泉鏡花の「日本橋」などが名高く、ぼくは復刻本でしか持っていないこの雪岱装画の鏡花本の初版本は、本物が古書展などに出てもちょっと手のでない高嶺の花で、指をくわえてみていたものです。

先日「新潮文庫のアリス」のページで触れた金子國義先生もやはり小村雪岱をリスペクトしておられて、今では金子先生がデザインを手がけた雪岱画のTシャツなどというものも発売されているようですが、神田神保町のご自身のギャラリー「美術倶楽部ひぐらし」をオープンされたばかりのころお邪魔してみると、この本物の鏡花本が飾ってあるのがまず目にとびこんできて、とてもうらやましく眺めさせていただいたことなども、なつかしく思い出されてきました。


小村雪岱の「青柳」
小村雪岱「青柳」 埼玉県近代美術館所蔵



暴力的なまでに斬新、と先に書きましたが、それと同時になつかしさと気品が同居している不思議な世界。

好きな絵はたくさんありますが、三味線と鼓が置かれた誰もいない部屋が描かれた「青柳」のような作品がとりわけすばらしい。

そういえば、小村雪岱が師事した日本画家・松岡映丘は民俗学者・柳田國男翁の実弟でした。

そんなことから思い出したのですが、子どものころ「遠野物語」を読んで、山奥深く迷い込んでたどりついた「迷い家(マヨヒガ)」で、座敷には綺麗な食器が多数並べ出されており、火鉢の火はついたままで、囲炉裏には沸いたばかりのお湯がかけてある。しかし、人は誰ひとりおらず、呼びかけても応える者はない、といった描写に出会い、何とも言えない不思議な気持ちになったことがあります。

小村雪岱の「青柳」にもどこかその「マヨヒガ」の話と似たような感覚を憶えてしまうのです。

「遠野物語」が民俗資料であると同時に比類なき文学作品であったのと同じように、雪岱の仕事に触れて思うのは「文学としてのデザイン」ということ。


実際に、小村雪岱の文筆の仕事は「日本橋檜物町」という文集にまとめられています。

なかでも、興福寺の阿修羅像と同じ容貌の女に出会った話など、文学作品としても一級品だと思います。

そしてそこに「自分の描く人物に個性はいらない。個性のない仏像のような人物を描きたい」という雪岱の画業の上での思想も織り込まれているのにも、非常に刺激を受けました。





北浦和にある埼玉県近代美術館では、2010年2月14日まで「小村雪岱とその時代 粋でモダンで繊細で」と題した企画展が行われています。

ぼくは以前この埼玉県近代美術館がある北浦和公演のすぐそばで暮らしていたのですが、昔も今も、いつもユニークな企画展を開いている美術館です。

ただし、その「近代美術」という性格上、反近代的な人間であるぼくのような者の琴線に触れる企画は、残念ながらそう多くはありませんでした。

そんな中、小村雪岱の出身地が埼玉県川越市であったという縁から、なつかしいけれどモダンな雪岱の仕事の評価に関してはどこよりも熱心で、「青柳」をはじめとする雪岱画の多くも所蔵されていることが、ぼくにとってはこの美術館のいちばんの目玉だったのです。


埼玉県近代美術館 「小村雪岱とその時代」展
埼玉県近代美術館 「小村雪岱とその時代」



今回の「小村雪岱とその時代」展も、力が入っていないわけはありません。

この機会にぜひ多くの方に、小村雪岱の「文学としてのデザイン」の世界に触れてみてほしいと思います。







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