Amarcord Nino Rota - ハル・ウィルナーのフェリーニの映画音楽作品集




ごく私的に、1990年代のベスト・アルバムが前回触れたサニーデイ・サービスの「東京」とするなら、ぼくがリアル・タイムで聴いた1980年代の音楽の中でいまだに最高だったと思っているのはマリアンヌ・フェイスフルの1987年作品「ストレンジ・ウェザー」です。





このおそろしく魅力的な憂鬱に満ちあふれたアルバムについても、やはりぼくはフリーペーパー「献血劇場」誌上に連載していた「雨の日の女」で取り上げたことがあって、その原文はまだwebにも掲載していないのですぐには参照できないのですが、たしかルイ・フェルディナン・セリーヌの小説「夜の果てへの旅」の印象的な一節を引用して綴った記憶があります。



「列車が駅にはいった、機関車を見たとたん、僕はもう自分の冒険に自信がなくなった。僕はやせこけた体にあるだけの勇気をふるってモリーに接吻した。こんどばかりは、苦痛を、真の苦痛を覚えた。みんなに対して、自分に対して、彼女に対して、すべての人間に対して。

僕らが一生通じてさがし求めるものは、たぶんこれなのだ。ただこれだけなのだ。つまり生命の実感を味わうための身を切るような悲しみ。」

セリーヌ / 生田耕作・訳 「夜の果てへの旅」





今にして思えば、「ストレンジ・ウェザー」という1枚のレコードが、マルティン・ハイデッガーより、柳田國男より、つげ義春よりも先に、16歳のぼくにはじめて「実存」という概念を感じさせてくれたのかもしれません。

そんな奇跡的なアルバムをプロデュースした人物として、ハル・ウィルナーという音楽家の名前はぼくの記憶にありました。


もうひとつ、「生命の実感を味わうための身を切るような悲しみ」を感じさせてくれるような作品を、映画の中に探すなら、やはりこれまでにも何度か触れたフェデリコ・フェリーニの名作「道」をあげることになります。





フェリーニの映像美も世界観も、ジュリエッタ・マシーナとアンソニー・クインの演技もちろんすばらしい。

けれどそれに劣らず重要な役割を果たしているのが、「フェリーニの『道』のジェルソミーナのテーマ」でも書いたように、その哀切な音楽なのだと思います。


最近になって思い当たったのですが、いくつもの傑作トリビュート・アルバムのプロデューサーとして評価されているハル・ウィルナーが最初に手がけていたのが、そのフェリーニの映画音楽を手がけたニーノ・ロータの作品集でした。





You Tube - Hal Willner - Nino Rota Medley
http://www.youtube.com/watch?v=_Jztf-lPaTY


You Tube - Hal Willner - Nino Rota's " La Strada "
http://www.youtube.com/watch?v=VKS40GN3big



"Amarcord Nino Rota (I Remember Nino Rota) "と題されたこのトリビュート・アルバムが発表されたのは1981年。

1979年に亡くなったニーノ・ロータの追悼盤という意味合いも込めて製作されたにちがいないこの作品は、1980年代の半ばに日本コロムビアから、そして1990年頃にMIDIレコードからCD化されていたようですが、気がついてみると今では入手困難となってしまっているようです。

そんな状況の中で、奇しくもぼくが最近このブログで取り上げたサニーデイ・サービスゆらゆら帝国をはじめとする、価値ある音源を有するMIDIレコードのリマスター音源発売を熱望するリクエストの声が、Twitterで賛同を集めているのを見かけました。

http://twitter.com/timeandlove/status/12337657338


矢野顕子も、ローザ・ルクセンブルグも、ぼくにとってはきわめて思い入れの深いアーティストで、そのことはまたいつか別の機会に綴ることがあるかと思います。

けれど今は、かつて迂闊にもちょっとおしゃれな映画音楽のジャズ・アレンジ作品みたいに思って入手しそびれていた、このハル・ウィルナーのニーノロータ・トリビュート作品の再発売を切望していることを特筆せずにはいられません。








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