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zoom RSS 不思議の国の甲賀三郎と春日姫 - 諏訪大社の御柱祭によせて

<<   作成日時 : 2010/05/08 17:58   >>

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2010年、平成22年は数えで7年目ごとに行われるという諏訪大社の式年造営御柱大祭の年。


諏訪大社下社 春宮, 長野県下諏訪町
諏訪大社下社 春宮, 長野県下諏訪町



日本三大奇祭の筆頭に上げられるこの勇壮なお祭りは、4月には上社山出し〜下社山出し、5月のはじめに上社里曳き、5月7日には下社宝殿遷座祭が営まれ、今日5月8日からは下社里曳きがはじまり、今回も痛ましい事故で幾人かの死傷者を出しながらも、大きな盛り上がりを見せているとのこと。

ぼくは残念ながらそのお祭りに参加することもできず、ただニュース映像やライブ動画配信などでそのもようを観ながら、諏訪明神の信仰について思いをめぐらせてみました。




全国に五千以上の分社となる諏訪神社の総本社であり、日本国土の中心に位置するとも言われる信州・諏訪湖の北に下社の春宮・秋宮、南に上社の本宮・前宮の二社四宮を配する諏訪大社。

御柱祭りを筆頭に、諏訪湖の御神渡、耳裂鹿の生贄、あるいは人身御供としての一年神主の伝承などなど。

いくつかの特殊神事できわだった特色が見られるその「お諏訪さま」の信仰は、有史以前に起源を持ち、正確には探るすべもなく、様々な謎に包まれた複雑怪奇なもの。

古事記の記述により、御祭神は国譲りの際にこの地まで追いつめられて服従した建御名方命(たけみなかたのみこと)とされてはいますが、現実の地元諏訪地方の信仰にも神事の内容を記した古文書にも、どうもこの出雲神話の神が重視されているようすは見られず、むしろ縄文時代以来のミシャグジ信仰に由来するものとの解釈が有力なようです。

けれど、ぼくが諏訪明神と聞いてまず思い浮かべるのは、中世に安居院の神道集として編纂された本地垂迹説話集に書きとめられた「諏訪縁起事」に登場する、甲賀三郎と春日姫の伝説なのでした。




安寧天皇より5代の子孫、近江国甲賀権守の三人の子の末子である甲賀三郎諏訪(よりかた)が、大和国を賜り春日姫なる美姫を娶るも、伊吹山の天狗にさらわれて行方を失った春日姫を求めて分け入った蓼科山の人穴から、維縵国へ至る七十余国の地下世界を経巡り、再び地上に現れたときには長い年月の過ぎ去ったあと。身は蛇体となってたものの仏僧の語る話のおかげで人の姿に戻り、三郎の兄・次郎諏任に奪われようとしていた春日姫とも大和の三笠山で再会。その後、支那の平城国に赴いた後に日本に帰り、三郎は信濃国岡屋の里に諏訪大明神の上宮として顕れ、春日姫は下社の神として顕れた、というあらすじ。


このおはなしは室町時代の「神道集」に記されたばかりではなく、各地の民譚や浄瑠璃など、文献を離れたところでもさまざまなバリエーションとなって口承文芸の世界で生き続け、多くのひとびとに諏訪明神のファンタジーとして愛されてきた形跡が明確に認められます。

迷い込んだ地下の不条理な世界での、シュールレアリスティックな冒険物語。

突飛な空想かもしれませんが、この物語が、ぼくには「2010 年のアリス・イン・ワンダーランド」の頁を書いて以来何度も読み返しているルイス・キャロルの童話「不思議の国のアリス」に描かれた、うさぎ穴に落ち込んだアリスの不思議の国に通じるような気がしてしまうのです。





古代の信仰の遺跡としてばかりではなく、中世から近世へそして現在へと、信濃の諏訪地方はもとより、各地で甲賀三郎の冒険譚をよすがに諏訪明神信仰を伝えてきた人々の心の中も、まるで「アリス」の物語に夢中になってしまう子供のような好奇心でいっぱいだったのではないでしょうか?


そしてもうひとつ、「不思議の国のアリス」を読んで、うさぎを追って穴に落ちて行く少女の物語を読んで連想させられるのは、出雲神話の大国主命のおはなし。

因幡の白うさぎを助けた童話めいた神話で知られる大国主命は、その後兄神たちの虐めを逃れて須佐之男命(すさのをのみこと)の住む根の国へ赴き、そこで須佐之男命の策略に陥れられ、放たれた火に囲まれたとき、「内はほらほら、外はすぶすぶ」というネズミの声にしたがって地面の下の穴に入り込み隠れることができた、という地下の国をモチーフにした冒険譚です。

諏訪大社の御祭神・建御名方命は大国主命の子、などという系譜の上の図式ばかりではなく、この上代の出雲系の神話は、根の国・地下世界の遍歴と通過儀礼としての幾多の試練という構造と、兄たちによる末子の虐待、妻問いなどの諸々の要素で、遠く中世の甲賀三郎の諏訪本地とどこかでつながっているのかもしれません。

ぼくはそのことが、その二つの物語の間に「不思議の国のアリス」のイメージを介在することによって見えてきたような気がするのです。


諏訪大社下社 春宮, 長野県下諏訪町
諏訪大社下社 春宮, 長野県下諏訪町



須佐之男命の娘である須勢理毘売命(すせりひめのみこと)を連れて根の国から去って行く大国主命に、須佐之男命は「底津磐根に宮柱ふとしり、高天の原に氷椽たかしりて居れ」という言葉をかけました。

大祓詞など多くの古典にも登場するこの成句を思うと、「柱」という日本神道の重要な呪物は、天にそびえる神さまの依り代でもありますが、むしろ底津磐根、すなわち地下世界との関わりこそが注目されてきます。


諏訪大社の御柱と、伊勢神宮の神秘の核心のひとつでもある心の御柱。

あるいは高天原の神話と出雲神話、ミシャグジ信仰と中世の説話の蛇体の神。

そのほんとうの姿を見定めるには、ぼくらの持つ好奇心を全開にして、深くリゾーム状に入り組んだ地下水脈をたどるように民俗の伝承と民族の潜在意識に分け入って行かなければならないのかもしれません。








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