柳田國男「遠野物語」の100年

2010年6月、柳田國男の最も有名な著書「遠野物語」が刊行されてからちょうど100年。 明治43年6月、自費出版でわずか350部ほどが刷られたというこのささやかな東北の小都市の説話集が、柳田國男という近代日本を代表する知の巨人の原点となり、日本民俗学はもとより、この1世紀にわたって思想・文学の世界にどれほどの影響をおよぼしたことか。 そしてぼく個人も、もしこの一冊との出会いが…

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小池玉緒の歌う「人形劇 三国志」のエンディング・テーマと"Runnin' Away"

支那文学の四大古典小説のひとつ「三国志演義」は、近年の「レッドクリフ」などを例に出すまでもなく、いまなおさまざまな形で作品化されて続けているわけですが、ぼくにとっての「三国志」は、まず中学生の頃に読んだ吉川英治の小説。 吉川英治「三国志」(講談社文庫版) 全5巻 正直言って、個人的にはそのドラマツルギーにそれほど魅了されたわけではなく、吉川英治の作品の中では「宮本…

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不思議の国の甲賀三郎と春日姫 - 諏訪大社の御柱祭によせて

2010年、平成22年は数えで7年目ごとに行われるという諏訪大社の式年造営御柱大祭の年。 諏訪大社下社 春宮, 長野県下諏訪町 日本三大奇祭の筆頭に上げられるこの勇壮なお祭りは、4月には上社山出し~下社山出し、5月のはじめに上社里曳き、5月7日には下社宝殿遷座祭が営まれ、今日5月8日からは下社里曳きがはじまり、今回も痛ましい事故で幾人かの死傷者を出しながらも、大き…

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鎌倉 鶴岡八幡宮 大銀杏の樹の新芽とひこばえ

ぼくは東北地方の出身でもあり、判官びいきでもあるので、義経追討と奥州征伐を行った鎌倉幕府の初代征夷大将軍・源頼朝という人物に対しては、必ずしも好感情を持っていませんでした。 けれど昨年、伊勢神宮への参拝にあたって所功著「伊勢神宮」(講談社学術文庫)を読んでいると、武家政権の基を築いた頼朝公が母方(熱田神宮大宮司)の影響もあって、早くから神社崇敬の念を持っていたことが幸いし、中世…

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杉並大宮八幡宮 - 小さいおじさんの妖精が棲む神社の都市伝説

近ごろ広まった都市伝説のひとつに「小さいおじさんの妖精の棲む神社」があって、そこへお参りをした芸能人がその「小さいおじさんの妖精」を連れ帰った、などという発言をして話題になっているということを聞きました。 テレビ都市伝説『小さいおじさん』の謎に迫る http://www.excite.co.jp/News/entertainment/20080908/Cyzo_200809_…

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The Times They Are A Changin' - 続 ボブ・ディランの来日公演に寄せて

ぼくがボブ・ディランのライブを観たのは1994年、3度目の来日のときのことでした。 そのときの演奏で、いまでも印象に残っているのは、"The Times They Are A Changing"。 「時代は変わる」という、時代が変わっても変わらない真実を歌った1964年のヒット曲を古色蒼然としたたたずまいで歌うボブ・ディランと彼のバンドを観ながら、自分がい…

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薩摩の国のアリスたち ~ルイス・キャロルと島津斉彬の少女写真

「不思議の国のアリス」の作者としておなじみのルイス・キャロルこと、チャールズ・ラトウィッジ・ドジソンといえば、その文学の仕事と並んで、黎明期の写真芸術史を彩る数々の作品を残していることで知られています。 写真家ルイス・キャロル (写真叢書) ヴィクトリア朝のアリスたち―ルイス・キャロル写真集 なかでも、「アリス」の物語のモデルとなった実在のアリス・リデル…

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坂本龍馬をお祀りする神社

【坂本龍馬についてのノート その3】 ※その1・「坂本龍馬と昭憲皇太后の夢」 ~その2・「坂本龍馬と万国公法」もあわせてご一読下さい。 坂本龍馬をお祀りする神社といえば、平成10年11月に高知県佐川町の龍馬公園内に設けられた「佐川龍馬神社」という小祠があり、平成19年にはこれが岐阜県中津川市の坂本八幡神社にも神職の方の熱意によって分祀が実現した、ということで、近年の人気…

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坂本龍馬と万国公法

【坂本龍馬についてのノート その2】 ※その1・「坂本龍馬と昭憲皇太后の夢」の続きです。 土佐勤王党の同志であった檜垣清治という人物が龍馬と再会したとき、檜垣が当時土佐で多く用いられていた長刀を差しているのに対し、龍馬は短めの刀を差していたのでその理由を尋ねると、「実戦では短い刀に利がある」と説明。 その発想に納得した檜垣清治は、次に龍馬と再会したとき、自分も短い刀…

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坂本龍馬と昭憲皇太后の夢

【坂本龍馬についてのノート その1】 坂本龍馬という人物はかねてより国民的な人気がある幕末の英傑ですが、近頃はまたNHK大河ドラマ「龍馬伝」がスタートしたこともあって、あちこちでその名を耳にするようになりました。 けれど、坂本龍馬の成し遂げたこと・成し遂げようとしたことの歴史的評価をめぐっては、ぼくの意見は世間のそれとはちょっと趣を異にするのではないかと思っていたので、そ…

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オスカー・ワイルドの「幸福な王子」と法隆寺の捨身飼虎図

葉子の万年少女人形館の新作陶土人形は「幸福な王子」をイメージして作ってみたので、そのお人形を入れる箱を製作してほしい、との依頼を受けました。 童話「幸福な王子」をはじめて読んだ、というより耳にしたのはまだ幼稚園児のころ。 「東京こどもクラブ」の朗読レコードで聴きながら絵本を眺めたのが最初の出会いだったと記憶しています。 なんだかとても悲しくて、心に残るお…

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伊勢神宮のお札「神宮大麻」と「小さな神社」がある暮らし

12月25日、わが家からメールが来たので見てみると、「埼玉県神社庁から、何か郵便物が届いてるよ」。 開封して写真に撮って送ってもらうと、小さな木の板きれが二つと、さらに小さな可愛らしい白木の鳥居がひとつ。 それを見て、数ヶ月前に秩父三社めぐりをしたときに葉書をもらって応募した「『小さな神社』がある暮らし-鳥居付きお札立てプレゼント」というキャンペーンに当選した…

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天長祭と七人のサムライ

12月23日といえば、今上天皇陛下の御誕生日。 国民の祝日であるこの日、皇居では祝賀の儀や一般参賀が催され、伊勢神宮をはじめ全国の神社では天長祭が執り行われ、国を挙げてお祝いしご長寿をお祈りするおめでたい日。 それなのに、ぼくはちょっと複雑な思いを抱かずにはいられません。 先の大戦の後に開かれた極東国際軍事裁判で、インド代表のラダビノード・パール判事が法廷そのものの欺瞞…

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日本無罪モラトリアム Wikipediaのパール判事

久しぶりに「パール判事の日本無罪論」のおはなしを書きます。 今年の5月に発売した「日本無罪~パール判事トリビュートTシャツ」は、これまで東京裁判のことなどにまったく無関心だった方にも思いのほかご好評いただいているようで、先日の「26人のマトリョーシカ展」でご一緒した方からも「あのミュシャ風のイラストも稲村さんの作品ですよね」とお声をかけていただきました。 そん…

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市ヶ谷の街と昭和45年11月25日の三島由紀夫

もうずいぶん前のことですが、雑誌の版下作りのアルバイトをしていて、数ヶ月のあいだ市ヶ谷の自衛隊駐屯地の坂を上ったところにある東洋最大の印刷会社に通っていたことがあります。 当時はたまたま持ち歩いていた文庫本、海野弘「モダン都市東京―日本の1920年代」にちょうど出てくる吉行あぐり美容室の跡などを偲んだりしていたくらいで、特別にその街の歴史を気にかけることもありませんでした。 …

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富士と筑波と新嘗祭の物忌み

今日11月23日は、現在の法律では「勤労感謝の日」とされている新嘗祭の日。 日本国でいちばん大切なおまつりである践祚大嘗祭と、それに連なる年毎の新嘗祭のことについては、これまでにも「天皇論についてのノート 皇室祭祀と食儀礼」「伊勢の神宮の神嘗祭の日に」の頁でくりかえして触れてきましたが、平成21年のこの日をむかえて、今日は皇室祭祀に限定されることなく、あまねくこの民族に共有されてき…

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26人のマトリョーシカ展と文化の日

今朝は昨夜の荒れもようから一転してよく晴れて、11月3日は「晴れの特異日」と言われていることを思い出しました。 いまでは「文化の日」とされている国民の祝日ですが、1946年に公布された日本国憲法が平和と文化を重視しているから、などというその由来を、ぼくは納得することができそうにありません。 かつては明治天皇のお誕生日を記念して、その御聖徳を偲ぶ「明治節」という祝祭日だったこの…

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神無月・神在月と出雲大社のおみやげの鈴

10月のある日、たまたま島根県へ旅行に出たという方に、「今月は神無月、全国の神さまが杵築の出雲大社に集まる月だから、ぜひ出雲大社にお参りしてみて」とおすすめしたところ、さっそく赴かれて、「出雲大社はすごくいいパワースポットだった」と喜ばれ、わが家にもおみやげにお守りの「しあわせの鈴」を買ってきていただきました。 この方は、「日本瞥見記」の中で「出雲は、わけても神々の…

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伊勢の神宮の神嘗祭の日に

10月の17日は伊勢の神宮の神嘗祭の日。 7月に実現したお伊勢参りからちょうど3ヶ月が過ぎて、「伊勢神宮 参拝の印象」「卑弥呼の日食と天の岩戸神話」「美術手帖の伊勢神宮特集」「上野で見た『伊勢神宮と神々の美術展』のまとめ」など、伊勢神宮のことについてはもうすでに何度か書き綴ってきましたが、まだまだ書き尽くせないことがたくさんあって、今回はそのなかでも特に大切なことを書きとめておきま…

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要石 - 後編・鹿島神宮

(要石 - 前編・香取神宮からの続きです。) 鯰絵 剣で大ナマズを押さえつける鹿島大明神 香取神宮から鹿島神宮へ巡る途上、「坂東太郎」の名を持つ暴れ川である利根川の流れを越えて、茨城県へ。 古代のひとびとは日本最大の河川が洪積してできたこの「ひたちのくに」に、「常陸国」の字をあてました。 「常陸風土記」にはこの国が海や沼を渡ることなく往来できる平野とし…

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要石 - 前編・香取神宮

千葉県香取市の香取神宮と、茨城県鹿嶋市の鹿島神宮。 記紀神話の国譲りの場面にて活躍する武甕槌命(たけみかづちのみこと)が鹿島の神、経津主命(ふつぬしのみこと)が香取の神、藤原氏の氏神である奈良の春日神社もこの二社の神を遷し祀ったものとされ、中臣氏の神道との関わりも深く、それぞれ古くから各地の尊崇を集めてきた由緒ある神社ですが、この二つの古社に共通して、さらにとりわけ興味深く思ってい…

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パール判事と「受験に強い朝日新聞」

ぼくがイラストレーションを手がけた「日本無罪~パール判事トリビュートTシャツ」は、この種のテーマを描いた商品ということがセールスの上ではネックになるかもしれないと危惧しつつ、覚悟の上で発売に踏み切ったものでした。 けれどおかげさまで思いのほか好調で、発売元ブランド「昭和元禄」の7月の売上ランキングでも「姫だるま~マトリョーシカTシャツ」に続いて2位にランクインと、意外なくらい健闘し…

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上野で見た「伊勢神宮と神々の美術展」のまとめ

東京・上野の国立博物館で開かれていた「伊勢神宮と神々の美術展」は、はからずもぼくが生まれて初めて念願だったお伊勢参りを果たした7月の同じ週から開幕していたのですが、毎日のように上野駅を通り過ぎながらもなかなか時間を取ることができずにいて、9月6日の日曜日、最終日の午後になってようやく観に行くことができました。 「伊勢神宮と神々の美術」チケットと皇大神宮の御朱印 遷…

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先祖の話 - 柳田國男とぼく自身のルーツについて

いつのころからか、お盆の頃になると柳田國男の名著「先祖の話」を通読し直すことが、ぼくの中で恒例の行事になっています。 柳田国男全集〈13〉 (ちくま文庫) 「先祖の話」「日本の祭り」「神道と民俗学」ほかを所収。 昭和20年、先の大戦の終結を目前にした連日の空襲警報の下で、靖国神社に祀られる若き兵士たちのみたまを念頭に、民族の信仰・他界観・日本人の死後の観念・霊魂のゆく…

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終戦の日の靖国神社参拝

8月15日、東京・九段の靖国神社へお参りしてきました。 何度も訪れているこのお社ですが、問題にされている「終戦記念日」に参拝したのは、初めてのことです。 数年前の狂騒の異常な熱はかなり冷めてしまったのか、今年は内閣総理大臣も、野田聖子消費者行政担当相ひとりをのぞく閣僚のほとんども、東京都都知事すら参拝することがなかったとはいえ、正午頃はやはりたいへんな人出…

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レス・ポール & メリー・フォード - How High the Moon

ぼくらはどちらかというとフェンダー・テレキャスターのようなパキパキと固いサウンドが好きだったけれど、「ジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズ・ウィズ・エリック・クラプトン」あたりで聴くことのできるエレキ・ギターの音にしびれてしまった少年少女だった時代があるぼくらにとって、やっぱりギブソン・レスポールという名前には特別な響きがあります。 その生みの親だったレス・…

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三峯神社のオオカミの護符

秩父三社と総称される三つのお社、宝登山神社・秩父神社・三峯神社を巡り、参詣してきました。 御朱印帖から ~三峯神社・宝登山神社・秩父神社 ぼくの棲む浦和からのアクセスを調べてみると、高崎線から熊谷で秩父鉄道へ乗り換え、というコースもありましたが、今回は早朝から池袋へ出て西武線で西武秩父駅へ向かうことに。 西武池袋線も所沢を過ぎ、飯能を過ぎてしばらく行くと山の…

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広島で死んだ女の子の詩

あけてちょうだい たたくのはあたし あっちの戸 こっちの戸 あたしはたたくの こわがらないで 見えないあたしを だれにも見えない死んだ女の子を あたしは死んだの あのヒロシマで あのヒロシマで 遠いあの日に あのときも七つ いまでも七つ 死んだ子はけっして大きくならないの トルコの反体制詩人で共産主義者でもあったナジム・ヒクメットが19…

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「リリー・マルレーン」と南京のまぼろし

好きなメロディ、といって思い浮かぶ歌のひとつに、「リリー・マルレーン」という古い歌があります。 You Tube : Lili Marlene with color pictures of the german army 映画「嘆きの天使」の100万ドルの脚線美で有名な女優マレーネ・ディートリッヒのレパートリーとして知られるこの歌の旋律を、ときどきふと思い出す。すると…

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卑弥呼の日食と天の岩戸神話

先日、生まれて初めて参宮の願いが叶った伊勢神宮は、式年遷宮を繰り返すことで千数百年にわたって再生を繰り返し古代を今に伝えていました。 内宮・皇大神宮の御祭神はいうまでもなく天照大御神(あまてらすおおみかみ)ですが、この女神さまは皇祖神であると同時に、大日孁貴神 (おおひるめのむちのかみ)の名でも知られる太陽の神様でもあります。 その天照大御神が天岩屋戸にお隠…

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